年の瀬が近づいていた。
ほっかむりをし、白い前掛けを身につけたラフィは鼻歌を歌いながら、掃除に精を出していた。小屋の外ではしんしんと音を立ててながら雪が舞い落ち、それはいつも暗い印象しか持たない魔の森に薄化粧を施していた。この小屋の持ち主が寒さを厭うたこともあってか、煌々とした炎が暖炉の中で踊っている。ぱちりぱちり、と時折聞こえてくる音は、恐らく休み無しで働かされている火の精が不平不満を言っているのだろう。そんな暖炉の前に座り込み、リンは自分の身長程もある大きな薬草全書を読んでいた。それは薬草の汁が染み込んでいるせいか、ところどころ緑色に汚れている。
この小屋の主――セルゲイは頬杖をつきながら、いささかアンニュイなため息をついた。請け負った仕事は早々に片付けてしまったし、持て余す退屈な時はセルゲイにとっては耐え難いものなのだ。それなのに反してご機嫌な使い魔が目障りだったので、セルゲイは掌に大きめの火の玉を作るとそれを無造作に投げつけた。見事なコントロールを誇る火の玉はラフィの頭を直撃し、髪の毛をちりちりに焼く。綺麗なストレートだった黒髪は部分アフロになり、その滑稽さにセルゲイの退屈も少しだけ紛れた。
「熱っっっっ!! っっゴラァァァァ! 何すんねん! 魔術師!」
「お前の空っぽな頭を少し焼いただけだが。使い魔」
憤慨しながら食って掛かるラフィをセルゲイは鼻であしらった。ラフィはその理不尽さに怒りで身を震わせていたが、これ以上は遊ばれてやるものかとセルゲイを無視することにしたらしい。くるりと背をむけ、掃除を再開し始めた。ラフィにしては賢い判断だった――がセルゲイがそれを面白く思うはずが無い。
じゅう、と焦げるような匂いと激痛に今度こそラフィは飛び上がった。文句を言うために開いた口は次の瞬間にはぴたりと閉じる――接着呪文である。
セルゲイは芝居がかった様子でやれやれと首を振った。
「何時からお前は、私を無視できるほど偉くなったんだろうな――ラフィレアード」
「むぐぐー! むごっ! ふむぅーーー!」
「私の調教方法が間違っていたのか? それがお前を付け上がらせる羽目になったと? それはまったくもって嘆かわしいことだ」
セルゲイは悲しげに目を細め口元をほっそりとした手で覆った。それは彼の人間離れした美貌と相まって、見るもの総てに同情を抱かせる完璧な儚さだった。しかしラフィは知っている。
セルゲイの唇は厭らしく喜悦に歪んでいることを!
「さて、道を誤ってしまった使い魔に与えるものは?」
これまでの経験から言って、続きは予想するに難くは無い。
「――お仕置きだ」
セルゲイはにやりとサディスティックな笑みを浮かべた。
「えっとモケサス草? ブリアと――こっちも混ぜちゃえ」
リンは傷だらけで床の上に伸びているラフィの手当てしていた。といっても純粋な優しさからではなくさっきまで読んでいた薬草大全の効能を試したかっただけだから、出来立てほやほやである怪我人のラフィは、リンにとってタイムリーな実験台であった。適当に配合した薬草を鉢でごりごりとすり潰し、いい具合に汁が出てきたらヘラで布の上に適量を取る。そしてラフィの患部にべしゃり――とやった所でラフィが飛び起きた。
「いだだだだぁぁぁ! し、染みるっっっ!」
「……しまった。これじゃ配合があってたかわかんない」
ラフィはふーふーと傷口に息を吹きかけていたが、傍らで「つかえねぇやつ」と不満そうに唇を尖らせているリンに気づいた。リンの行動をいつも好意的に解釈するのが習いとなっているラフィは、自分の身を心配してしてくれたのだと感動で目を潤ませる。
「リンちゃん、心配かけたなぁ。手当てしてくれたんやろ? 俺のために」
「あ、うん」
曖昧に肯定したリンにますます感激してラフィはリンをきゅと抱きしめた。ラフィをコテンパンに苛めて大分、退屈が紛れたのかセルゲイは晴れやかな顔をしながら読書中である。セルゲイを睨みつけながら、ラフィはリンにとつとつと言い聞かせた。
「あんな外道になったらあかんでぇ。リンちゃんはぴゅあで可愛いままのリンちゃんで居てやぁ。それだけが俺の願いやし」
こうなるとラフィは長い。それを知っていたリンは適当に相槌を打ちながら、薬草の組み合わせを頭の中で反芻し始めた。打ち身に効くのはモケサス草と、ブリア。火傷に効くのはブラーテンとヤクチュライ…えぇっとドクシラブも効果があったかしら?
それが百八通りまで来た時に、愚痴っていたラフィは急に思い出したように話題を変えた。
「あぁ、そうや、ときにリンちゃん。なんか欲しいもんある?」
「サフマニ草とキリア蔦は――え、なぁに?」
唐突な質問にリンは訝しげに首をかしげる。その反応の薄さにラフィは驚いた。
「だってクリスマスやん、もう少しで」
「くりすます?」
たどたどしい口調で問い返したリンにラフィははっと気がついた。そういえばリンが物心ついてからクリスマスを祝うのは初めてではないか? 自分とした事がうっかりしていた。
それならば、子供の夢を育むのが親である自分の役目!
使命感に突き動かされ、ラフィがおもむろにサンタクロースについて説明を始めようとしたとき、またしても唐突に口が開かなくなる。
獲物を見つけたかのような表情のセルゲイが音も立てずラフィの背後に立っていたのである。
「――リン、お前はクリスマスを知らなかったのか」
「はい、師匠」
その声は歌うように優しくもあった。しかしこういう表情と声色をしているときのセルゲイは油断がならない。何を企んでるんや! とセルゲイに掴みかかろうとするも、ラフィは呆気なく緊縛呪文にとっ捕まった。もごもご言いながら這いつくばっているラフィの背中を踏みながらも、セルゲイは新しい知識を授けてくれるのかと好奇心に目を輝かせる弟子を見つめた。
どうやって苛めてやろうか。
セルゲイは思案した。それもラフィにやるような野蛮な方法ではなく、もっと精神的に責めるのがリンにはおあつらえ向きだといつも思う。リンが無邪気に笑っているところは可愛いが、必死になっているのも可愛いし、泣いているところも可愛い。転んでも可愛いし、怒っても可愛いのである。なんて不思議な生き物なのだろうと、セルゲイはリンが存在したことに感嘆さえする。
彼はその可愛い生き物を心の底から愛していたのだ――非常に屈折した形で。
手招きをすると、リンはとてとてとセルゲイの元へと寄ってくる。なんといった警戒心のなさだろうと少し呆れた。流れる髪に見とれているリンを抱きかかえて膝の上に座らせるとセルゲイは子供特有の柔らかい頬を抓りあげた。その顔が不細工に歪んだ事に満足してからセルゲイは口を開く。
「――クリスマスがキリスト教の創始者の生誕降臨祭。宗教的な意味合いを持つ祝日だという事は知っていたか?」
「ええと、キリストが生まれた日、ですか?」
首を横に振りながらリンは答えた。
「厳密に言えば違う。クリスマスはイエス・キリストの生誕に関係しているが誕生日というわけではない。その記録は存在していないからな。だが、十二月二十五日に祝われるようになったのは、太陽神を崇拝していたローマで行われていた行事が、後にキリストの生誕祭と結びついた為だといわれている――それも真偽のほどは解らないが」
「それが欲しいものと何か関係があるのです?」
いい所を付いたな、とセルゲイは弟子の飲み込みの速さに唇をわからない程度に緩ませる。
「キリストの誕生日と贈り物が直接関係するわけではない――サンタクロースと呼ばれる架空の人物。キリスト教の聖師父である奇蹟者聖ニコラウスの伝説が起源とされているその輩が、ここで問題になってくる。最も広く認知されている姿としては、カトリックの祭服の色に由来する赤に白の縁取りのある服を身にまとい、常に笑顔を浮かべ、白髭を生やし、太り気味の体型――私の主観では唯の気味が悪い中年に過ぎないが。そのサンタクロースが二十四日の夜中、子供が寝ている間に贈り物を配る、というわけだ」
「――とみせかけてラフィちゃんが贈り物を持ってくるのですね。なるほど」
手をぽんと叩くと納得がいったようにリンは呟く。理詰めの頭はいとも簡単、かつ的確にその答えを導き出したらしい。サンタクロースからプレゼントを貰ったと喜ぶリンを思い描いていたラフィはがくりと肩を落とした。しかし、セルゲイはゆるりと頬を吊り上げると肩をすくめた。
「リン、そう早合点をしないことだ。サンタクロースは――存在する」
「師匠?」
何を言い出すのかとリン首を傾げながらセルゲイをみつめた。セルゲイはアルイックスマイルと呼ばれる微笑をたたえ自分の胸をほっそりとした手で抑えた。
「ここにな」
なにぃぃぃーーーっっ!?
顎が外れ落ちるほど驚愕したのはラフィレアードである。しかし哀れにも接着呪文でぴたりと閉じられていた口からその絶叫が漏れ出すことは無かった。
「師匠がサンタさん、ですか?」
リンは訝しげな視線をセルゲイにおくった。生憎、架空の人物を盲目的に信じるという子供らしさはリンには欠如している。いくらセルゲイの言う事であろうと、リンは半信半疑のようだった。その視線に少しも動じた様子を見せずセルゲイは続けた。
「サンタクロースは地域により、呼び方や姿形が変化する。現に北方の国々ではトムテ、ユーレニッセ、ユーメリンがサンタクロースに代わるもの、あるいは融合したものとされている。そしてこの国ではサンタクロースは双子であると言われている。良い子供にプレゼントを贈る白いサンタクロースと、悪い子供にお仕置きをする黒いサンタクロース――私だな。そして黒のサンタクロースがいつも従えているといわれる使い魔が」
セルゲイはちらりと這い蹲っているラフィに視線を落とした。
「そこの間抜け面というわけだ」
「ふぐーっ! ふんむっ!」
ラフィは抗議の唸り声を上げたが、セルゲイはさっくりと無視した。
リンはふむ、と唸りながら考え込む。セルゲイが笑顔でプレゼントを配るところはまったく想像できないが、ラフィにお仕置きをしているところは何度も目にしていた。
……そうか、師匠は普段もラフィちゃん相手に予行練習をしていたのか。確かに懲らしめられた子供のトラウマになってしまうほどにお仕置きは徹底的だった。
そんな結論に至ったリンは、深々と頷いた。
「そうですか。師匠はサンタさんだったんですか」
「そうだ――ところで、お前は何か欲しいものはあるか?」
セルゲイはまんまと弟子を騙した事に会心の笑みを浮かべながら問いかけた。勿論の事、セルゲイは魔術師であってサンタクロースであるわけが無い――結局はこの男、ラフィレアードに先を越されるのが悔しかっただけなのかもしれない。
しばらくの逡巡の末、返って来た言葉はセルゲイの予想を少しだけ裏切っていた。
「あります。けど、秘密です」
セルゲイの形の良い眉が不機嫌そうに跳ねる。それだけでラフィは部屋の中の体感温度が二、三度は下がった気がした。しかし、怖いもの知らずの弟子はきゅっと小さい唇を固いつぼみのように閉ざす。それは彼女の絶対に言わないという意思表示だった。
「白いサンタさんにお手紙書きます」
「それは私には言えないということか」
リンは少しひるみながらもしっかりと意志を感じさせる瞳で頷いた。ほう、とセルゲイは喉を振るわせる。その声はいやに低い温度を保っていたが、セルゲイの背後に渦巻く怒りのオーラを見てラフィは裸足で逃げ出したくなった――リンちゃん、怖いもの知らなさすぎやで!
セルゲイはリンを床の上に下ろすと、そのちっちゃな生物を高慢な態度で見下す。
「度胸だけは褒めてやろう。しかし師匠に隠し事をするような弟子が欲しい物を得ることが出来るとでも本当に思っているのだとしたら、それはとんだお笑い草だ」
拳をぎゅっと握り締め仁王立ちしていたリンは半べそをかきながら勇敢にも言い返した。
「こ、これからがんばります! 師匠のお手伝いもいっぱいいっぱいします! だから絶対白いサンタさんは絶対に来てくれます!」
その犯罪級の愛らしさにセルゲイの怒りは一気に挫かれた。
リンが隠し事をするのは激しく気に入らないが、結局は欲しい物が書いてあるという手紙を読むのは自分なのである。それならばこの場で吐かせるよりも、後のお楽しみとしてそれを理由に遊ぶほうが数十倍も可愛い上に楽しいだろう。そう判断すると、セルゲイは微笑を浮かべた。
「精々、頑張るがいい――その代わり、私が悪い弟子だと判断した場合は解っているな」
暗にお仕置きが待っているのだぞ、とラフィを指し示しめす。痛々しい様子のラフィにリンはぶるりと体を震わせた。それにセルゲイは片頬をにやりと吊り上げる。――これで当分の間は退屈しなくて済みそうだな。
それから、セルゲイにとっては計算通りの心躍る日が過ぎていった。
やる気を全身にみなぎらているリンは、まるで若い小鹿のように飛び回り、セルゲイの言いつけに忠実であろうとした――つまりはいつも以上にセルゲイのいい玩具になっていたというわけだ。
セルゲイがかけた呪文で、リンが儀式に使う器具を壊してしまった時は、雀の涙ほどだが存在したセルゲイの良心も痛んだ。しかし、それもリンが唇を噛み締めて涙をこらえている姿が可愛らしかったのですぐに忘却の彼方へと投げ捨てる事となる。そしてしょんぼりとして謝ってくるリンに、セルゲイはいつもの冷笑を称えてこういうのだ。
リン、白いサンタが来るのかどうかが楽しみだな、と。
そうこうしているうちに、クリスマスがやってきた。
振り続ける雪が音を吸い込み、静寂が我が物顔で世界を支配している。遠く離れている村では、天へと届くような澄んだ賛美歌が歌われているのだろうが、そんなものには一抹の興味の無いセルゲイは、暖炉の前に置かれた椅子に腰をかけて本を読んでいた。部屋にいるのはラフィとセルゲイの二人のみで、リンは食事の後、妙に緊張した面持ちで部屋へと入っていったところだ。
ラフィは皿洗いをしながらちらちらとセルゲイの様子を伺っていたが、一向に彼が動く様子は無い。どうするつもりなんやろう、とラフィは少し不安になった。クリスマスまでのセルゲイのリンに対する行動が、いわゆる愛情の裏返しであり暇つぶしであるという事にはラフィも気づいていたが、セルゲイがどうするつもりなのかまったく解らないままでクリスマスを迎えてしまった。欲しい物を聞いた時点で、何かを贈る気ではいるのだろうが、セルゲイがセルゲイである限り安心は出来ないのである。
そう考えている時に、ぱたん、と軽い音を立て本は閉じられ、セルゲイはおもむろに立ち上がった。
「ラフィレアード、そろそろ行くぞ」
どこへ、というのは愚問であったが、ラフィは言葉を返す。
「せやけど、リンちゃんが寝に行ってから、小一時間しかたってへんで? まだ流石に起きてるやろ」
白いサンタクロースに来て貰えるかどうかが不安で気も立っているはずだ、とラフィが付け加えると、セルゲイはつまらない事を聞いたとばかりに切り捨てた。
「ああ、心配する事は無い。一服盛っておいたからな」
「なんやてっ! んむごごごごっっ!」
「煩い。黙れ。リンが万が一に目を覚ますような事があれば、私が代わりに貴様を眠らせてやる――永遠にな」
物騒な台詞をさらりと吐いてセルゲイはリンの部屋の扉へと足をすすめる。普通に考えて、いたいけな少女に眠り薬を盛る親があっていいものだろうか、とラフィは沈黙呪文で噤まされた口をもごもごと動かした。前々から思っていたが、人間と悪魔だからという隔たり以上に、セルゲイとラフィの価値観はかけ離れているらしい。扉に手をかけていたセルゲイは、思い出したように、ふと動きを止めた。
「ああ、忘れていた」
ほっそりとした指を鳴らし、腕を軽く振ると、セルゲイを包んでいたローブはまるでペンキをぶちまけたかのように唐突に、黒から白へと色を変えた。その色によって清廉な輝きを持つ銀髪は更に美しさを増したかのように見える。
ほほお。そうしてると何や、白魔術師みたいやなぁ。中身は真っ黒の癖して。そうつい考えたことをもらしてセルゲイに叩きのめされる羽目にならなかったのは皮肉にも沈黙呪文のお陰である。それでも勘が鋭すぎるセルゲイは何かを感じ取ったのか、ラフィのほうへと向き直ると、底意地の悪い笑顔を浮かべた。
「ラフィレアード、お前も”それらしく”なっておくべきだな」
そう言いながら、セルゲイはもうひとつ指を鳴らした。するとラフィの体は妙な感覚とともに溶け出し、一瞬後、そこに存在するのはピンクの豚。
「ブヒッ! ぶひぶひぶひ!」
なにすんねん! と抗議の声を上げるとセルゲイは、ひっそりと眉を潜めた。
「お前は三歩で忘れる鳥より、よほど上等な頭を持っているとみえる――それ以上騒ぐようなら明日の夕食に並ぶのはおまえ自身になるが」
ぴたりとラフィは口をつぐみ、うるうると黒目がちな瞳を輝かせ幸せの豚になりきった。口に出した以上、本気でやってしまうのがセルゲイである。流石に愛しているからといってもリンちゃんに美味しく食べてもらう光景はシュールすぎていただけない。
ぎぎいと扉を開けると、セルゲイは部屋へ体を滑り込ませた。蹄が極力音を立てないように細心の注意を払いながら、ラフィも後に続いた。ベッドの上の毛布は膨らんでいて、どうやらリンは寝入ったようだ。セルゲイはリンの枕元に近づき弟子を見下ろす。そしてその無垢な寝顔に何故か胸が温かくなった。それはリンと出会ってから覚えた不可解な感情だ。セルゲイはこの世の事象で理論的に説明できないものは無いと信じていたが、それは唯一の例外で、しかし決して不快ではないものだった。
妙な感慨を感じて弟子の寝顔に見入っていたセルゲイの足を、豚の蹄がつつく。早く済ましてしまわないのか、というラフィの無言の訴えである。
思考を邪魔されたセルゲイは、豚の尻尾をむしりとってやった。ぴぎー! と鳴き声を立てそうになって豚は思い出したように沈黙する。それに満足したように笑って、セルゲイはリンの枕元においてある封筒を手にし、良心の呵責などまったくなしに、セルゲイは手紙を読んだ。それにはこう書いてあった。
白サンタさんへ
あなたがこの手紙を読んでるってことは、私はいい子だって認められたってことですね。だから正直に書きますけど、最初はサンタさんなんて居ないと思ってました。ごめんなさい。
欲しいものはじつはたくさんあります。
だれど、いっぱい書くと師匠に「欲深さがどう判断されるのか、考えられぬわけではあるまい?」と言われそうですから、一つだけ書きます。
銀色の髪の毛がほしいです。師匠と同じの。
それだけです。だからどうかおねがいします。
リンシア
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手紙を読み終えるとセルゲイは笑い出してしまいそうになった。確かに前々からリンが自分の髪にやたらと憧れているのは知っていた。しかし、まさかサンタクロースに頼むほどとは。自分に黙っていたのは驚かせたかったのだろうか、いや、馬鹿にされると思ったのだろう。なかなか鋭い読みである。
馬鹿な子だ。馬鹿で――愛おしい。
くつくつと腹の底から湧き上がってくるような笑いをこらえながら、セルゲイはラフィに必要な薬草を取って来るように命じた。それも十分以内に。
無理や! と叫んだ使い魔を脅して黙らせる。矢のように飛んでいくラフィを見送り、セルゲイはゆるりと皮肉げな笑みを頬に張り付かせる。
「たまには聖人気取りも、悪くない」
月に照らされたそれは、どこまでも優しく、慈愛の微笑とも錯覚できるものであった。
結果、欲しいものを得たリンであったが「禍々しさなら黒のほうがええでぇ。黒魔術師なら黒やでぇ」というラフィの地道な洗脳により、一年後にリンがサンタに頼んだのが「黒髪」だったというのは余談である。

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