※お話を読む前の豆知識 (間違ってたら指摘お願いします)
「家庭教師・リボーン!」
中学生の沢田綱吉(さなだつなよし)は勉強も運動も出来ない通称「駄目ツナ」。そんな時にイタリアからやってきたのは一歳の幼児で暗殺者で家庭教師!?
「俺はリボーン。お前を一人前のマフィアのボスにしてやる」
本人の意思はさっくり無視されながらもリボーンのスパルタ教育で鍛えられていくツナ。彼はイタリアの有力マフィア、ボンゴレファミリーの十代目になれるのかっ!?
獄寺隼人(ごくでら はやと)
幼少よりマフィアになりたかった金持ちのぼんぼんで帰国子女。イタリアで育ったためイタリア、日本語とバイリンガルで容姿も端麗。しかし勉強が出来る以外は頭がすこぶる弱い。命を助けられた事で綱吉に傾倒、心酔している。いつも煙草をふかしており、それは武器であるダイナマイトにすぐ着火するためでもある。姉のビアンキに会うと、幼少のトラウマを思い出し、嘔吐しながら昏倒する。
三浦ハル(みうら はる)
バイオレンスな乙女。綱吉にピンチを救われてから、綱吉にぞっこんラブ。容姿は可愛いのだが、その言動は奇天烈。綱吉たちとは違う学校。
死ぬ気モード
ボンゴレファミリーに伝わる特殊弾「死ぬ気弾」を頭にぶち込まれた時に、何か後悔することがあったら発動する。いわゆるスーパーサイヤ人っぽい状態。
獄寺隼人には気に食わない女がいる。
学校からの帰り道、獄寺は隣を歩いていた綱吉にそれを伝えた。綱吉は少し困ったように首をかしげ、クラスの女の子に対する獄寺の態度を思い出してから、遠慮がちに言葉を返した。
「あのさ、獄寺くんが”気に食う”女の子っていた覚えないんだけど」
「はいっ、いません!」
部下兼・未来の右腕である自分の事をよく見てくださってるんだなと感激しながら獄寺が即答すると、綱吉は酷く疲れたような顔をする。
――そういう表情も渋いっス!
綱吉のやる事すべて讃えずにはいられない獄寺が、すぐにそれを伝えようと口を開いたその時、噂していた”気に食わない女”がボウフラの様に湧いて出てきたのである。
「ツナさぁーーーん!」
「へぶっ!」
突撃してきた塊に跳ね飛ばされ、獄寺はコントのように電信柱に顔面から激突した。痛みでじんじんする顔を抑えながら、獄寺は綱吉に馴れ馴れしくしているその人物を睨んだ。
「てめー何しやがるアホ女っ! 十代目から離れやがれっ!」
まだ正式には継いでないとは言え、栄えあるイタリアマフィア、ボンゴレ十代目に出会いがしらに飛びつくとは無礼もいいところだ。ここがイタリアだったら今頃、ずどんと眉間に風穴が開いているところだろう。それぐらいの権利はあるのに寛大な彼の上司はアホ女に腕をとられながらも、困ったように笑うだけなのだ。
「ハ、ハル、相変わらずテンション高いね」
「ツナさんに会えて嬉しいからですよ! ハル、今日、調理実習でプリン作ったんです! 食べてくださいっ!」
「あぁ、えっと。ありがとう」
アホ女、もとい三浦ハルはもじもじと顔を赤らめながら、綱吉にプリンと思われる物を突き出した。いつものことながらハルの唐突な態度に綱吉も面食らっていたが、好意を素直に受け取る事にして、少し恥ずかしそうにしながら礼を言う。
そうすると、面白くないのは獄寺である。
自分の敬愛する十代目があんなアホ女と仲良くしてるなんてムカツク。っていうかウザイ。目障りだ! ――古今東西、度の過ぎた嫉妬はみっともないものである。
「十代目っ! アホ女が作った得体の知れないもの受け取るなんて危険ですっ! 姉貴に料理習ってたぐらいですから、絶対に腹壊しますよっ!」
獄寺の姉ビアンキは、作った料理をすべて毒に変えてしまう「ポイズンクッキング」の使い手だ。ビアンキの恐ろしさは嫌というほど知っていた綱吉の顔が一瞬にして強張った。
「失礼ですね! 自分がもらえないからって意地悪言わないで下さいっ!」
「てめーの作ったものなんざいらねぇ!」
ぎりぎりと歯軋りをしながら獄寺がハルを睨みつけていると、ハルは何かに気付いたようで首をかしげた。
「獄寺さん、そんなところに座り込んで何やってるんですか? それに鼻血でてますよ――はっ、白昼堂々ハレンチな事考えてたんですねっ! イヤッ! 不潔ですっ!」
獄寺のダイナマイトの導火線より短い気は、ぶちんときれた。
綱吉には四次元ポケットのようだといわれている制服の内側から両手一杯のダイナマイトを取り出し、銜え煙草を導火線へと近づけた。綱吉が慌てて諌めようと思ったときはもう遅い。
「――果てろっ!」
そう叫び、獄寺は火のついたダイナマイトをハルに向けて思い切り投げつけていた。
”獄寺くん、反省するまで俺に近づかないで”
あの時、ばら撒かれたダイナマイトは死ぬ気モードになったツナにより消火された。
幸いなことに破壊されたものは無い――咄嗟に放り出されたハルのプリン以外は。
ショックを受けてしゃがみこんでしまったハルに綱吉は申し訳なさそうに声をかけ、獄寺に咎めるような視線を送った。しかし、ハルの主君の気を引くような行動が気に喰わなくて、獄寺は反省するどころか余計にムカムカした。そして次に吐いた台詞が最悪だった。
「弁償すりゃあいいんだろ。プリンごときでがたがた言いやがって」
それを聞いたハルが抗議の叫びを上げる前に、綱吉は獄寺にさっきの言葉を宣告したのだ。いつもは温厚で優しい(事なかれ主義で優柔不断とも言う)綱吉が本気で怒った時の容赦ない態度だった。
以前にも似たようなことがあった。そう、あれはカツアゲしていたのが綱吉にばれた時だ――といっても相手は高校生で、むこうから因縁をつけてきたから獄寺はぼっこぼこに返り討ち(それはいささか過剰防衛だったが)にしただけであって、その報酬として敗者から金品を強奪したまでである。そう当たり前のように言うと、綱吉は表情を引き攣らせながら「信じられない」と呟き、今のように無情にも接近禁止令を言い渡したのである。
どこの鉄砲玉が十代目のお命を狙って飛び出してくるかもしれねぇのに、このオレがお傍でお守りできないなんてっ! と獄寺が心配で気が狂いそうになるのは至極当然の事である。綱吉に言わせれば、一番危険なのは獄寺自身であって、それを遠ざけておけば平穏は約束されたようなものだ。しかし日に日に獄寺が憔悴していくと綱吉は流石に気の毒になったのか、その時は二度とカツアゲはしないと土下座しながら誓った獄寺を許したのだった。ということで”接近禁止令”は世間知らずな犬を躾けるための綱吉の最終奥義だったわけだ。
獄寺は謝った、謝って謝って謝り倒した。
「十代目、スイマセン。俺が悪かったです。これからは心を入れ替えて貴方に尽くしますから、どうか許してくださいっ!」
土下座する獄寺に綱吉は嫌そうな表情をしたが、返す言葉はいつもこうだ。
「獄寺くん、謝る相手が違うよ」
つまり十代目はあのアホ女に謝れと仰っているのだろうか。
そう獄寺が気付いたのはあの事件から一週間後。勉強以外に力を発揮する事の無い頭で考えて、謝る相手=プリンから離れるまでにそれだけかかったのだ――プランクトン馬鹿である。獄寺は綱吉やリボーン以外の相手に頭を下げた事が無かったし、ましてや気に食わないアホ女に謝るなんて論外だった。これっぽっちも悪いと思ってねぇのに謝れるか。というのが獄寺の持論だ。しかしこのままでは綱吉を守ることも出来ないし、右腕候補から外されてしまうかもしれない。そう考えると、獄寺は血を吐く思いで自分の信念を曲げるしかないようだった。
学校が終わると綱吉は部活の無かった山本と一緒に帰ってしまった。
野球野郎潰す、消す、果たす。と脳内で何回も山本を爆死させながら獄寺は教室を出た。鋭い目つきと、銜え煙草、機嫌の悪そうな様子に生徒や教師は獄寺と目を合わせる事を避ける。触らぬ獄寺に祟りなしだ。
だらだらとやる気の無い足取りで校門まで行けば、他校の制服を着た少女の姿が目に入った。事の元凶(獄寺にとっては)、三浦ハルである。いらいらも最高潮に達しようとしていたから、獄寺は問答無用でダイナマイトを取り出そうとした――がちょっと待て。懐に手を突っ込みながら獄寺は考える。アホ女に謝るなんざ死ぬほど嫌だが、十代目の傍に居られないほうが何百倍も辛い。それならとっとと謝っちまった方がいいだろう。そう思いなおして獄寺はハルに近づいた。獄寺に気付いたハルは、一週間前のことなんて忘れたみたいに呑気な声を出す。
「あっ、獄寺さん。今日はツナさんと一緒じゃないんですか?」
「うるせぇ。黙れ」
獄寺は出会い頭に侘びをいれるつもりだったのに、ハルがあっさりと地雷を踏んだことでそれもおじゃんになった。それでも爆破するのを我慢しただけ、進歩しているのかもしれない。獄寺の眉間にくっきりと刻まれた皺にかまうことなく、ハルはふぅとため息を付いた。
「もしかして、ツナさんもう帰っちゃったんですかぁ? ハル、この前、駄目になっちゃったからもう一回プリンもってきたんですけど」
プリンとハルという組み合わせに、獄寺の機嫌はさらに急降下した。謝ろうとしていたことなんて忘れて、綱吉が見てないうちに殺ってしまおうか、という思いまでが頭を掠める。
「今日はツナさんに、会えるかと思ったんですけど。無理ならしょうがないですね」
綱吉に会えないと知ったとたん、しゅんとしたハルに獄寺は怒りを忘れ、一瞬、同情にも似た思いを抱いた――それに気付いて自分で自分を殺したくなったが。
普段の獄寺なら「ざまぁみろ、十代目に近づく奴はすべて滅びやがれ!」とでも考えていただろうが、自分も綱吉の傍に居られない今だからこそ、すこぉしだけハルにシンパシィを感じてしまったのだ。同じ学校、同じクラスである獄寺と比べ、ハルは綱吉と過ごせる時間も短い。もちろん忠誠と恋愛感情は違うものだが、相手の傍にいたい、役に立ちたい、喜んでもらいたい、という気持ちは同じだ。
あの時、自分が吐いた言葉はそんなハルの気持ちを踏みにじっていたのだと、獄寺はそこで初めて気付く。
そして諦めて踵を返しかけたハルを、気付いた時には呼び止めていた。
「獄寺さん、なんですか?」
きょとんとしたハルが、獄寺に問う。しかし獄寺も「悪かった」とは思っているのだが、やはりプライドが邪魔をして素直に謝れない。さんざん逡巡してから、獄寺はようやく口を開いた。
「それ、オレが十代目に届けてやろーか」
「は?」
ちゃんと聞き取れなかったのか、それとも獄寺がそんな台詞を吐くとは想像もしていなかったのか、ハルは目を瞬かせる。なんとなく気まずいのと、短気という性格から獄寺はすぐに切れた。
「渡して欲しいのか欲しくねぇのかハッキリしやがれっ!」
「はひ!」
ハルは獄寺の勢いに押されたようにプリンの入った包みを差し出す。獄寺がそれを受け取ると、ハルはへにゃんと表情を崩し「ありがとうございます〜!」と笑う。
そんな間の抜けた顔を見ていると、獄寺は意地を張っていた自分が馬鹿らしく感じた。
「おい、アホ女」
「はひ?」
「悪かったな」
あんなにこだわっていたのが嘘のように謝罪の言葉がするりと出た。しかし、肝心のハルの反応はずれていた。
「なんのことですか?」
「てめぇ……もういい」
やっぱアホ女はアホ女だ。気にしたオレが馬鹿だった。
胸のつかえは取れたがなんだかどっと疲れた気分で、獄寺は別れの挨拶も無しに歩き出した。すると今度はハルが獄寺の背中に声をかける。
「あっ、獄寺さん」
「なんだよ」
振り返るのが億劫で獄寺は不機嫌そうな声を出した。
「今日は沢山めに作りましたから、獄寺さんも食べてくださいね!」
「オレはいらねぇ」
うんざりしながらも、獄寺は返事をする。背中越しだったから表情までは見えなかったが、ふとハルが微笑んだ気がした。
「それが、ハルからの”ごめんなさい”ですよ!」
その言葉に弾かれたように獄寺が振り向くと、スキップしながら去っていくハルの背中が見えた。獄寺はそれをしばらく見つめていたが、「解ってたんじゃねぇか」とため息混じりに呟くと沢田家の方向へと歩き出した。さっきよりもプリンがずっしり重く感じられたのは気のせいだろうか。
家に訪ねてきた獄寺に綱吉ははじめ渋い顔をした。しかし獄寺がハルのプリンを渡すと、一瞬びっくりしたような表情で獄寺を凝視してから、珍しくも笑顔で家に招き入れてくれた。
そして丁度、おやつの時間だったから、ハルのプリンが皆に振舞われる事になった。
獄寺も珍しくご相伴に預かり、透明の器に入ったプリンをひとすくいして口へと運ぶ。そして舌の上にはカスタードの甘い味が――。
「ごふっ!」
「どっ、どうしたの? 獄寺くん」
「ぴぎゃー!」
いきなり変な音と共に噴出した獄寺に、綱吉はプリンを食べようとしていた手を止める。不幸にも獄寺の前の席に座っていたランボに、プリンの残骸が派手に噴きかけられた。
獄寺が吐き出したのも無理は無い。
ハルが作ったプリンは身体が摂取するのを拒むくらい刺激的な味がしていたのだ。
獄寺の額にはぴしりと血管が浮かぶ。何本かはすでに切れていた。
「アホ女――ぜってぇ、果たすっっ!」
気に食わない女はなかなか食えなくて、作ったものはさらに食えなかったという話。
その女、食べられません。
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