

「ネフティス。ここに居たのか」
小麦色の肌が夕日に染まり、なめし革のように光を弾く。
贅沢な黄金の装飾品を身につけた少年――アトゥムは顔を綻ばせた。
彼の一際印象的な瞳は琥珀色をしており、まるでそれ自体が光を放っているようにも見える。それはアトゥムがファラオの血筋であることを証明し、見慣れているネフティスでさえつい見入ってしまうほど美しかった。
ネフティスはオリーブの木の上に寝転びながら、アトゥムにちらりと視線を移す。気が長い兄が怒るところなんて見たことはないが、お目付け役のトート爺に見つかれば、いくら妹御といえどファラオを見下ろすなど! と苦言していたところだろう。
ネフティスは一つ溜息を吐いて、オリーブの枝から体を起こした。
「兄様、わたし、もうちょっと寝ていたいのだけれど」
唇を尖らせれば、アトゥムは少し困ったように笑う。妹にはいつも甘い彼だが、それでも今日は引き下がらなかった。
「だけどネフティス。君だって知りたいだろうと思ったから探しに来たんだ――彼が帰ってきたよ」
ぶらぶらと足を揺らしながら兄の話を聞いていたネフティスは、その言葉に目を輝かせる。
「エポドスが帰ってきたのね! 兄様! はやく言って下さったら良かったのに!」
アトゥムは思ったとおりだと愉快そうに肩をすくめた。そして、妹に向かって手を差し伸べると、ネフティスは躊躇せずに木の上から飛び降りる。その体を受け止めながら、薄布が体にまとわり付くことに癇癪を起こしかけているネフティスにアトゥムは朗らかに笑った。
「ネフティス、そんなにあせらずとも、エポドスは逃げないよ」
「それは分からないわ! だって、この前だって、わたしに別れを告げずにエポドスは行ってしまったじゃない!」
「それは、君が行かないでくれと、わがままを言うからだろう」
「わたしは、兄様の気持ちを代弁してあげただけよ!」
膨れっ面になりながら叫ぶネフティスの額に慈しみの唇を落としながら、アトゥムは微笑んだ。
「僕の代わりにわがままを言ってくれてありがとう。君のような心優しい妹が居る僕は幸せだ」
「わたしも……って、兄様! 喋ってる場合じゃないわ! エポドスのところへ行かなきゃ!」
アトゥムの手を握り、ネフティスは駆け出した。引っ張られるアトゥムはくすくす笑いながらも、この幸せに感謝せずには居られなかったのだ。
それはマアト暦八百六十八年――王国が尤も繁栄を誇っていた時であった。
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ヤオさんのところから頂いてきたリクエストイラスト! 民族衣装+肉体美という無茶振りに素晴らしすぎるイラストを描いていただきました! まじですごい!!!! しかもおかっぱまでつけてくれるという、ヤオさんのサービス精神に惚れる!!!! エジプト風(ここポイント)の王族兄弟の日常を書いてみましたがオチなさすぎる…でも家族愛、兄弟愛も萌え。ちなみに詳しくかけなかったのですが、エポドスは外国から移住してきた傭兵で剣の先生だったり、面白い話をしてくれる人という設定です。本気で蛇足でしたが、ヤオさん、素敵なイラストをどうもありがとうございました!
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