眼鏡の似合う人




 よくあるでしょう、高校の文化祭で全校なんでもトップ10決めるヤツ。
 今年は新聞部がやるそうで、回ってきましたアンケート用紙。その一つが「眼鏡の似合う人」。
「誰にする?」
 問いかけには即答が返って来た。
「マーシーでしょう、やっぱり」
 スヌーピーに出てくる茫洋とした眼鏡少女の名前をアダ名に頂く友人は、本家が隠し持っている舌鋒を毒つけて常に全開にしている危険人物だ。しかしアダ名は容赦なくマーシー。今や下手すると本名より通りが良い。そしてその容赦ないアダ名を付けたのは、目の前の一見人畜無害な友人だ。私と合わせて三人、出席番号が並びでしかも似たような趣味を持っていたため、自然発生的に連れとなった。
「いや、コレは『似合う人』ではないでしょう」
 すぐ横で、面倒くさいとやさぐれながらガリガリアンケートの答えを埋めているビン底眼鏡のマーシーを見ながら、私がキッパリ言うと、人畜無害顔の友人は不思議そうな顔をした。
「なんで?いつも掛けてるじゃん」
 話題が自分のことだとようやく気づいたマーシーも、顔を上げた。
「だって、外した方が可愛いんだもの」
 にっこりと笑いかけて言うと、案の定、マーシーは逆上した。
「はいーぃっ?誰が何だって?」
「マーシーの眼」
 実際に外して見せようとしたら、激しく抵抗された。
「本当に、切れ長なのにクリクリッとした、ツブラな瞳なのよ?眼鏡で隠すのもったいないくらい」
「わーっ!ヤメロお前は!歯が浮く」
「だからこの子は『似合う人』ではないのよ」
「そういうオチですか・・・しかも『この子』」
 傍観していた友人は、何故だかもの凄く疲れた顔をした。
「じゃあ、そういうアナタの『眼鏡の似合う人』とは・・・?」
 何故そこで恐る恐る聞くかなあ。
「そうね。眼鏡をかけてこそ魅力の増す人!外さない方が良い人!」
「うわ力説!具体的には?」
「そこなのよね。中学の時とか学校外ならいるんだけど・・・」
 そう、中学校の時なら、同級生に一人良いのがいた。丸刈り坊主に銀縁眼鏡が恐ろしくハマっていて、「美僧」ってこんな感じなのかと納得しちゃったわよ。外した眼もツブラで可愛かったんだけど、少-し馬面だったから、眼鏡があるくらいでベストバランスだった。それなのに、ああそれなのに、この間再会したら、コンタクトしてライオンヘアーになっちゃってて・・・どこのおっさんかと思ったわよ・・・。私の破れた夢を返せぇぇぇぇ。
「それで学校外ってのは?」
 は。
「あれ、私口に出してた?」
 こっくん。
 大きく頷いてこちらを見る二人に、にーっこりと笑い返した。
「あはははは。まあ気にしない気にしない」
 話す気がないことを、ひらひらと手を横に振って表すと、彼女らはあっさり諦めてくれた。
 この潔さが私らの友情の秘訣よね・・・。
 なんせこればかりは、一応現在進行形だから。
 眼鏡の似合う某青年は、私の部活に時々やって来るOBの連れ。ただ今鑑賞中なので、大事にしたいのだ。

 ちなみに、文化祭で発表された眼鏡の似合う男女のトップはというと。
「田中先生-。なるほど!」
 教師とは盲点だった。
「でもこっちはどうよ。彼女、新聞部の・・・」
 しかもたまにしか眼鏡掛けてない娘じゃあーりませんか。
「なんだかな・・・」
 ちょっと白けるが、まあ内輪で何か仕掛けたんでないかい?
「ご感想は?センセイ」
「私は先生じゃないー。一応生徒だ」
「一応ですかい」
「こほん・・・まあ、どうせ私の趣味は、一般大衆の感覚とはズレてるから・・・」
「とかいいながら体重かけるな重いー!縮むー!」

《了》


前項

作者/oki