おにいちゃんが、そら、とんでました。
あ、ちがう。
おちてます。
あぶない、です。
これでもにいさん
マンションの踊り場で何か喚き散らしてるオッサンが刃物振り回し始めました。周りに小っさい子供とかが居たってのに空気が読めない奴です。危ないなーと思ったんで飛び蹴り食らわしたら勢い余ってオッサンごと窓硝子突き破っちゃいました。大いなる地球に引き寄せられて、踊り場から落ちました。
骨折しました。
まぁ痛いです。
オッサンは植え込みに落ちたんで打撲程度らしいです。けど、何かショックが強かったらしくてガタガタ震えて喋れないそうです。ショックって…コンクリートの上に落ちた俺の方がよっぽどショックじゃねぇ?何か不服です。
看護士のおねーさんが美人でした。良かったことって言ったらそれぐらい。
弟が何か怒ってます。
落ちて地面に寝転がったまま冬の空を堪能してたら、ぎゅーってしがみ付いてきて可愛いかったのに。珍しく甘えただったのに。あの後急に眠気が襲ってきてそのまま寝ちゃったんだけど、その間にいきなり反抗期が到来したんでしょうか。
マフラーの端掴んで引っ張ってます。俺のマフラーです。締まります。具体的に言うと俺の首が。
愛想無いけど可愛い弟です。あんまり感情が表情に出ない奴です。今だって俺の首締めながらも無表情です。将来は大物の予感です。俺には負けるけど。
「……」
「……」
首が締まってるんで喋れません。
弟は怒ってるんで喋りません。
何で弟は怒ってるんでしょう。
あと、おまわりさんにも褒められたけど怒られました。どっちかにしてくれ。
学校の先生は顔面蒼白でした。良く怒鳴る生活指導の先生なんだけど。
かーさんは、「まぁこんなこともあるものね」と冷静でした。流石俺の親。
とーさんは、「修行が足らねぇなぁ」と笑ってました。死ね俺の親。
世の中分かんないことだらけです。
「お医者さんお医者さん。人間、階段から落ちたら眠くなるんですか?」
「気絶したんでしょ」
「おぉ!!あれ気絶だったのか!凄い眠くなったと思ってた」
「…うーん。マンションの5階からコンクリートに叩きつけられて、それで腕一本と気絶で済んだのが驚きだなぁ」
「俺の骨、弱いんですかね…牛乳も魚も好きなんですけど」
「骨の強度の問題じゃない事態だったって分かってる?」
《了》
※ この作品はイラストとセットになっています。
前項
作者 / 今野些慈
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