いつもの散歩を終えて、小屋の中へと舞い戻れば、窓際に見慣れた人影があった。使い魔であるホンのマスター――リンである。本を読んでるうちにに眠ってしまったのだろうか、膝の上には開かれたままの魔術書が乗っているし、ランプはぶすぶすと燃えカスを焦がしていた。
静かな部屋の中には、リンの寝息だけが微かに空気をふるわせる。
気持ちよさそうに眠っているリンの寝顔を見つめて、ホンは深い溜息吐いた。口はぱっかりと開いているし、それに唇の端からは涎が垂れているからだ。それはお世辞としても、麗しい寝顔には成りえなかった。
油断しまくりだね。これなら寝首をかかれても仕方が無いな、と呆れるが、そんな外敵からは自分が守り通せば良いと考え直す。
とりあえずこのまま寝かせておいては風邪をひくと、ホンはリンに声をかけた。
「マスター、こんなとこじゃなくて、寝るんならベッドで寝なよ。首が痛くなるよ」
静かな部屋の中にホンの高めのテノールが響くが、肝心のリンはといえば、ぴくりと眉間を動かしただけだ。少し苛付いて、ホンは少し大きめの声量を出す。
「マスター? 眠いのはわかるけど、おきなってば」
しかしリンは眼を覚ます様子も見せず、くーくーと平和な寝息を立てているだけだ。寝汚いことは十分知っていたが、これはこのまま寝かせておくほかないのか。
ホンがそう諦めかけていたところ、リンは口をむにゃむにゃと動かし、なにか言葉を発しようとしている。
「んー、シショ、さすがにラフィちゃんも、銀ナイフでみじん切りしたら死んじゃうと思います。おいしくなさそうだし、無駄な労力なのでやめたほうが、いい、と思いますけ、ど」
……一体なんの夢を見ているのだろうか。夢の中でさえ虐げられているラフィレアードに同情しながらも、ホンは顔を引き攣らせる。
嘆息しながらも、リンの体にかける毛布を魔術で手繰り寄せ、それをかけようとした瞬間、むふふ、とリンが緩んだ微笑を浮かべた。
「そう簡単に自分の使い魔を嫁に出せるわけないでしょ? それなりに誠意ってもんを見せて欲しいと思ってるわけこっちは! わかる? 持参金は最低、1億コロナぐらいは……ぷすん」
「だから、何の夢見てんのさ!!!!!」
ホンの絶叫にも無反応で眠りの淵に沈んでいるリンを、使い魔は睨みつけた。ぷすんぷすんぐーぐーと、にやついているリンの顔をつついてやろうかと思ったが、その無防備な顔になんとかその衝動を耐えた。
夢の中で人身御供にされたことに腹をたてながらも、ホンはきちんと毛布をマスターの体に巻きつける。
――そして次の日、寝違えた首が痛いと言うリンに、少しだけホンは溜飲を下げたのであった。
夢のなかで
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御礼&蛇足という名の後書き
余々さんに頂いた、リンちゃんとホンちゃんのイラストです! めっちゃラブリー! マイペースなリンちゃんとしょうがないなぁって感じの世話焼きホンちゃんがそっくりそのままで、お話の中から抜け出してきたみたいでした。というか、このイラスト一枚が物語を持っていて、文章が本当に蛇足というかんじだったんですけど、いろいろと妄想させていただくのすごく楽しかったです! 本当に素敵なイラストをありがとうございました!