闇よりも濃い漆黒。
それは全てを飲み込む、無であり、同時に有である色だ。
その高貴なる色を身に纏った小さな生物が、従順にセルゲイの言葉を待っている。セルゲイは顔の筋肉を少しも動かすことなく、目の前の少女を見下ろした。
少女の名前はリンシア――セルゲイが初めて与えた名だった。
何かに名を授けるということは、それと深い縁を結ぶことだ。元より儀式に用いる目的以外に動植物を愛でるような趣味もなく、それどころか人と関わることさえ億劫なセルゲイにとって、自分を爪の先まで支配していた価値観が変わることなぞ、予想していなかった。
それともリンの存在が特異なのだろうか。
なるほど、有り得ない事ではない。
闇を注ぎ込んだような瞳を前にすれば、関心は惹きつけるばかりであったし、絶え間なく変化するリンの感情表現は、セルゲイの退屈を紛らわせ、いつも湧き上がってくる奇妙な温かさに心は満たされる。それはセルゲイにとって始めての感覚だったが、それも悪くないと、否、むしろ快く思っていた。
その眼が溶けるほど泣かせてやりたい。
丸みを帯びた腹が裂けるほど笑わせてやりたい。
食物のように柔らかい頬を膨らませて苛立ちを露わにするリンが見たい。
この小人のような体躯に、自分と同じ臓物が収まっている事に、セルゲイは感嘆する。いったいどうなっているか、解剖してみたいという衝動にかられたことは一度ならずともあったが、人間というものの脆弱さを理解していたセルゲイは瀬戸際でその衝動を耐えた。これほどまでに自分の興味をそそる物体が、動かなくなってしまうなど我慢ならない。
赤子であったリンを自分が拾ったのだから、これを構築する血と肉は全て、セルゲイのものだ。その理は不変のものだとセルゲイは信じて疑わなかった。
口ばかり達者で役立たずの使い魔――ラフィレアードは、セルゲイのリンに対する感情を、屈折した愛だと非難していたが、くだらないとセルゲイは一笑に伏せる。
取るに足りない有象無象、塵芥が、それを何だと定義づけようと興味は無い。
セルゲイの感情に唯一触れることの出来る物体は――リンシアのみなのだから。
美貌の魔術師は形の良い唇を鬱蒼と歪めて、自分を師匠と呼ぶ生物に微笑みかける。
私のリンは今日も変わらず愛らしい。結構だ。
さて、今日はどう虐めるか……。
其れは愛のカタチ
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御礼&蛇足という名の後書き
余々さんに頂いた、ちっちゃいリンちゃんのイラスト! かわーうぃーうぃー! 貰った瞬間に叫びだしたくなるほど愛らしいです。家に欲しいなこの子。セルゲイ師匠の気持ちがわかったので、+αもセルゲイ師匠視点でお送りしました。屈折してますがこれも愛のカタチです。たぶん。本当に素敵なイラストをありがとうございました!