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夜の散歩から帰ってきたホンは、目に飛び込んできた光景に頭痛を覚え、額に手を当てた――傍から見れば、世にも珍しい考える烏である。 「……マスター、なにその姿」 元から小さかったリンの体が更に縮んでいた。ちんちんくりんと称するに相応しいその姿は、推測するに五歳か六歳ほどの年齢だろう。ホンの呆れ声もよそに、リンはもぎゅもぎゅと、ケーキを運ぶ手と、咀嚼する口を動かすのに必死で、説明する気もないことは見て取れる。 ホンは脱力しそうになるのを堪え、諸悪の根源を睨みあげた。それにはなんの根拠も無かったが、これまでの経験上、間違ってはないだろう。 「腐れ黒魔術師、あんた、今度は何やったの」 ホンの台詞を受けて、椅子に座りながら頬杖をつき、リンを眺めていた美貌の黒魔術師――セルゲイは形の良い眉をそっと顰めた。その表情は濡れ衣をきせられて遺憾だと、物語っていたが、被害者面したその薄皮を一枚剥げば、その下に存在するのは悪魔も泣いて謝るほどの人非人である。 その捩れきった性格にも慣れつつあったホンは、セルゲイの機嫌の良さに直ぐ気づいた。この男は常人には理解できないほど屈折した愛情を、マスターに抱いているのだ。唯一の救いと言えば、セルゲイがリンを害する気は無いということだが、それも死ななければ何をしてもいいといった基準なので、まったくもって安心は出来ない。 あからさまに浮かれているセルゲイは、白魚の様な手で口元を覆い隠して目を伏せた。その様は一見、聖女のようにたおやかに見えるのだから性質が悪い。 「一時的に体を若返らせるだけで、精神に作用するものではない。今宵は宴の席だ。薄汚い鳥畜生の暴言も寛大な心で許してやろう」 「またマスター脅して飲ませたんでしょ。それが腐れきっていても師のやることとは思えないけどね――ちょっと、なに、宴?」 寛大な心という部分には異議を唱えるべきだったが、それよりも、話が見えずホンは問いただす。するとセルゲイは心底呆れたと言いたげに首を振った。 「鳥畜生には、主の生誕日を祝おうといういじましさなど期待できん様だな」 「マスターの誕生日だって?」 そんな話は聞いたことも無かった。もとより、その様な記念行事に全く興味を示さない主だったし、一度も祝ったことなどなかったのだ。 眉間に皺を寄せて、怪訝そうにしているホンに、人の皮を被った悪魔は、美しい弧を描いた唇でのたまった。 「急遽、"そう"なった。師自ら祝ってやるのだ。地に額を擦り付けながら喜んで然るべきだろう」 詰まり、お前が、やりたかっただけか。 余りの自分本位さにホンが言葉を失うと、セルゲイは頷き、それを認める。自分の発言の正当性を疑うという考えは存在しないらしい。 「頭の鈍い鳥畜生の分際でも、一生に一度くらいは核心を付くことが出来て良かったな」 相変わらず、口を開けば毒しか出てこない男である。密やかに微笑むセルゲイを前にして、ホンはこめかみが引き攣るのを感じたが、ずっと食べ続けている主に腹が立って、鋭い嘴での一撃をこめかみに入れることで憂さ晴らしをした。 「ひっはーい! ふももっ、ほほっ、はひふんほほっ!」 リンは頬張りながら意味不明な文句を言ったが、それでも手を動かすことをやめない。 傍らに置かれている贈り物に目を落とせば、「ラフィより」というメッセージカードが添えられていた。無駄にハートが多くてホンは辟易したが、リンが着ている装飾過多な服装も奴の趣味であることは間違いなかった。立派なケーキからも、リンの保護者を自称する鬱陶しい悪魔の存在が認識されたが、姿が見えないのはおかしい。 ホンが訝しげに思い、視線を滑らせれば、脚が暖炉からにょっきりと生えていた。灰の中に突っ込まれた部分からくぐもった様な声が聞こえてくるような気もしたが、ホンはとりあえず、見なかったことにする。開放すればしたで騒がしいだろうし、こちらには助ける義理も責任も無い。 そして、セルゲイが指を鳴らせば、リンとホンの頭上には三角の帽子が現れ、しかも、それは魔法で接着され、ぴくりとも動かなかった。 「……ひはははいね」 似合わないと言いたかったのだろう。頬の横にクリームをくっ付けながら、主はホンの姿を冷静に批評する。それに目を吊り上げながらも、ホンは深い諦めの溜息を吐いた。 「――食べてから喋って、って何度言えば解るのさ」 結局、この師弟には付き合う他無いのだ。 その後、悪魔よりも邪悪な人間が催した宴が素直に終わるはずがなく、悪魔の丸焼きがメインディッシュだと暖炉に火を放ったり、ある原住民の伝統的な生誕の儀を持ち出した師匠によって、弟子が逆さ吊りにされたことは言うまでも無い。 なんでもない日万歳! 戻る 御礼&蛇足という名の後書き 余々さんに頂いた、ちっちゃいリンちゃんのイラストです! ほんっとうにもう! かわいいなぁ! お誕生日会イラストだったので、無理矢理誕生日ネタ(笑)! 師匠相変わらず自由だな! そしてラフィちゃんは不憫です。 すごく癒されました。本当に素敵なイラストをありがとうございました! 余々さんのサイトはこちら! Rosmeralda.
なんでもない日万歳!
戻る 御礼&蛇足という名の後書き 余々さんに頂いた、ちっちゃいリンちゃんのイラストです! ほんっとうにもう! かわいいなぁ! お誕生日会イラストだったので、無理矢理誕生日ネタ(笑)! 師匠相変わらず自由だな! そしてラフィちゃんは不憫です。 すごく癒されました。本当に素敵なイラストをありがとうございました! 余々さんのサイトはこちら! Rosmeralda.