暗闇の中、さも万物を見下しているような傲慢な美しさを纏った月が浮かんでいる。少女はそれには目もくれず、じっと不気味に笑う森を見据えていた。
月はどちらかといえば好きだった。すべてを突き放すような冷たさをもちながら、暗闇を照らす光は酷く優しいのだと錯覚する時もある。
ひゅう、一陣の風が踊った。
艶やかな漆黒の闇をまとった己の使い魔だ。使い魔は一度身を翻すと、少女の肩に乗る。故意にか肩に食い込んだ鉤爪に少女の眉がひっそりと寄った。かつかつと嘴を鳴らすと、使い魔の闇に光る紅が少女を捕らえた。
「マスター、まだ終わってなかったの? 一体、何やってるの」
「……月光浴?」
「ぼっとしてただけでしょ」
詰まらなさそうに、ふんと鼻を鳴らすと使い魔は再び宙へと舞い上がる。その際に翼で少女の頬をぶったのは、ささやかな仕返しか。それに少しむっとしたものの、少女はやるべき事をとっとと片付けてしまおうと思った。
今日は満月。この日、森に棲む魔物たちの魔性は強まり、彼らは血を欲するようになる。
こんないい夜だから散歩でも、と森に近づくような馬鹿もいないわけではない。
だから、そんな彼らの魔性を沈め、凶暴性を抑えるために術をかけにきたのだ。
手をゆるりとおもむろに持ち上げ、そこに意識を集中させると、月の光の粒子が少女の掌にあつまる。きらきらとした光を放ち、少女が腕を動かすと、それは花火のように闇の中にゆるく跡を残す。そして森に向かって腕をかざせば、その光の粒子は八方に広がり振り注いだ。まるでそれは流星のようで、使い魔は美しさに目を細める。
少しの間、二人はその光景をじっと見ていた。リンはぽつりと口を開く。
「ねぇ、ホン」
「何」
「明日のご飯はバジリスクの姿焼きにしようか」
「空気読んだらどうなのさ」
ホンの刺々しい声にリンはそっと首をすくめる。
静かな夜だった。
月光浴
蛇足という名の後書き
せんとさんの美麗絵! またまた頂いてしまいました! リンが凛々しい美人さん! そしてホンはかっちょいいカラスですよ! うわぁ、あのおとぼけ主従をこんなにかっこよく書いていただけるなんて幸せ! 流石せんとさん!またまたぬるい妄想SSがくっついてきました。ともあれせんとさん、私の小説よりもはるかに立派で魔術師らしいイラストをどうも有り難うございました! ラブ!
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