昭和30年代。
酒や醤油や味噌は量り売りをしていた。今でも肉屋や総菜屋は量り売りをしている店もあるが、当時は酒屋の商品はほとんど全て量り売りされていた。 量り売りというのは文字通りグラムで販売していたのである。
もっとも当時は「尺貫法(しゃっかんほう)」が残っていたので、昔の重さの単位である「匁(もんめ)」が一般的に使われていた。
したがって客は必要な量だけ買うことが出来たし、財布の懐具合によって買う量も変化することが出来た。
またそれによって商品を無駄なく使うことが出来る上、無駄な容器を使わなくて済む。
むしろ量り売りは現在の大量廃棄の時代にはまさにぴったりな地球環境に優しい販売方法とも言える。
昭和40年代まではその方法で誰も文句を言わずむしろ合理的な販売方法と好意的であった。
しかし大量消費と流通体系の変化によって安価な容器で使い勝手も良く保存も利くという観点から少量パックの規格が出回ると量り売りの習慣はあっという間に廃れていった。
埼玉県のある一般的な家庭。夕飯の準備のため、近くの商店街に行き夕飯の食材を購入した。
そしていざ調理という段階になり、醤油を切らしているのがわかった。
「醤油がないと味付けが出来ない……。仕方ない、お隣さんのところでもらってくるとするか。」
今では絶対に考えられないことであるが、以前は家で調味料がなくなった場合、隣の家に行ってもらいに行ったのである。
これは当時はどの家庭も貧乏だからこそお互い様という考えもある。また今のように調味料の買い置きをしなかったのである。
したがって醤油をもらいに行ったり別の家からもらいに来ることは日常茶飯事であった。ある意味地域の結びつきが強固だといういい例でもある。
もちろんこの場合、借りた醤油は返さなくてもいい。また別の日にその家が別のものを借りに来るかもしれないし、「おすそ分け品」がお礼としてくるかもしれないからである。
一方醤油を隣の家に貸した家の奥さん。いつものように何も考えないで貸したので、結局自分の家で使う分の醤油が無くなってしまったのである。 また別隣の家からもらうことも出来なく、世間体も一応ある。
まだ夕飯時まで時間があるということなので、近所の酒屋まで買いに行くことになった。
ついでだから酒も残りが少ないし、御用聞きが来るまで待てなかったのでこれも一緒に買っておこうと思った。
量り売りなのでもちろん酒や醤油を入れるビンは家から持ってくる。もちろん昨日まで酒や醤油が入っていたビンである。今風に考えれば酒屋で詰め替えてくれるのである。
酒屋では従業員が手際よく漏斗(じょうご)で醤油と酒を一升ずつ入れてくれ、それ相応の金額を支払った。
けどいざそれを持って帰ろうとしても主婦の力では重くて運びにくい。
1.8kg×2+ビンの重さであるので大体5kgくらいある。これは主婦としては結構の重量である。
しかし当時はこのようなアフターサービスにも店は対応してくれたのである。すぐに使う醤油は持って帰るが、酒は夜にでも家まで配達してくれるとのこと。
奥さんは快諾し酒ビンを店に預け醤油ビンだけ抱えて帰っていった。
現在では醤油は味噌はもちろん酒もほとんど量り売りをしてくれない。
しかも醤油や味噌は今ではスーパーマーケットで他の食料品と一緒にパック詰めされて売られている。
これはこれで便利なのだが、かえって不便になったともいえる。少人数の家族では使いきれず大家族では使い終わったゴミが増えるばかりである。
醤油や味噌のパックは他に流用できないので結局は捨てられることになる。
缶ビールなどは論外である。アルミ缶やスチール缶は飲み終えればゴミになる。うまくリサイクルできればいいが、そうでないと永遠にゴミとして残る。
そう考えると現在は昔の量り売りの方式を大いに見直すべきである。資源は無限ではないのだから。
【完】
酒屋
蛇足という名の感謝の叫び
K.Sさんから10万hitのお祝いと相互記念に、小説を頂きました! 昭和の酒屋さんのノスタルジーを感じました。まるで本当にタイムトリップしたみたいです。
K.Sさん、素敵な小説を本当にありがとうございました!
K.Sさんの創作サイトはこちら! 「電網町一丁目商店街」
戻る
|