「手をつないでもいいかい?」
「嫌」
「それなら鼻をつまんでもいいかい?」
「……それは貴方の中では譲歩してるわけ?」

 彼の認識の上では、鼻をつまむのも立派なスキンシップに入っていると言うのだから末恐ろしい。そのうち、一緒に足で拍手しませんか? とか爽やかに誘われたらどうしよう。
 いや、無論即効拒否するけれど。
 そんな心配をしていると、彼は手を開いたり閉じたりと変な運動を始めている。
「何してるの? 握力の強化?」
「いや。手が寂しいな。なんて思ってないに決まってるだろ。全然まったくこれっぽっちも」
「……遠まわしに嫌味言っている?」
「あれ解ってしまったかい? これって愛の奇跡? 嬉しいなぁ」

 嬉しがるな。

 とここで突っ込んでも無駄な事は解っている。どんな自分の突っ込みでさえ彼の中では、愛の囁きに変換されているらしいし。脳内麻薬が過剰分泌されているとしか思えない。まったく幸せな人だ。
「絶対に嫌」
「何でだい? 君はもう僕を愛していないと? 愛を交し合った一夜は夢だったと言うのか」
「嘘八百を並べるな。妄想はよそでやれ」
「HAHAHA。酷いなぁ」
「胡散臭い外人笑いも、気持ち悪いから」
 ちょっと大げさに笑う彼。そういう時は実は傷ついている時だったりもする。半端じゃなく解りにくくて凄く天邪鬼だ。でも優しくできない自分はそれの上を行く捻くれ屋。
 結構似たもの同士っていう話。


「あのねぇ」
 本格的に拗ね始めた彼はいつの間にか小さくなっている。そういう風に自分を可哀想に見せる事にかけてはぴか一だ。全然羨ましくないけれど。
 かまってもらうまで子犬の目で待ち続ける技は通用しないと前回学習したのか、今日は部屋の隅で永遠に「の」を書く作戦らしい。はっきりいってさほど大差はないし、どっちにしろウザイ。声をかけると彼は悲しそうな表情で振り向いたけど、騙される事なかれ。目は期待に満ち満ちている。
「緊張すると、汗かくから」
 だから嫌。と言うと、なんだそんなことか。と彼は顔を上げて嬉しそうに笑う。
「僕は乾燥肌だから問題ない! 君の汗で潤うなら僕は本望だよ!」
「すっごい気色悪いよそれ」
「さぁ掌を広げて。カモン」
「そのジェスチャーもやめて」


 ねぇ、緊張する理由をあててごらんよ。
 そしたら、鼻ぐらいはつまませてあげるから。



彼と彼女の

認識の相違について




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