俺は次、生まれ変わるときは絶対にナメック星人になろうと決めている! あの肌の色の渋さと、触覚のクールさがいいな。あと卵を口から産むという夢もあるし、ナメック星人はどんな遠くにいても声を出すことなく会話が出来るテレパシー能力を備えているんだぞ! それだけじゃあない! 水を栄養に変える酵素を体内に持っているから、水だけでも生きられる上に、頭部さえ無事であれば身体の一部分が損傷しても自由に再生できる特徴をもつんだ!
そんなこと、しらねっすよ。
と言える勇気があればどんなに良かったことか。口に出したが最後、締め上げられる自分の未来は簡単に想像できたから、私は口をつぐみ深い溜息を吐いた。
さっきからドラゴンボール片手に熱くナメック星人に付いて語る男――桂木拓巳は机の上に足を乗っけるという行儀の良さで私に対峙していた。普通からははみだしまくっている人物ではあるが、好きなことについて熱弁を振るう点では、常人と同じらしい。
切れることの無いナメックトークはいつ終わりを迎えるのか……いつものように喫茶店で、漫画を読んでいる桂木に声をかけた時点で私の命運は尽きていたのだろう。
エメラルドグリーンの瞳はいつも作り物のような綺麗さで、ビー玉のように透きとおっている。じっと見ているとぐるぐるとした渦に飲み込まれてしまいそうだ。
ミスターカツラギの催眠術ショウとか見てみたい気もするが、力技でスプーンとか叩き折ってそうなイメージしかわかない。それはエスパーか。間違えた。
どうでも良いことをつらつらと考えていると、意識を飛ばしていることがばれたのか、ほっぺたを鷲掴まれた。不機嫌そうに膨れた頬がこちらを見返している。
「こら! 聞いているのか! 俺が折角、ナメック星人の素晴らしさを伝道していると言うのに! おまえの不真面目さには幻滅したぞ! この、非国民! 非ナメック星人!」
「いや、私、そもそもナメック星人じゃないですけど……」
「――普段からお前はナメック星人に対するリスペクトが足りない、足りないとは思っていたが……ここで比類なき意識改革が必要なようだな! よし、シャッツ、お前、ナメック星人になったつもりで触覚で喋れ」
「無茶言わないで下さいますかっ!? というか、普段から私、ナメック星人に対して言及してた記憶はっ――んん」
ぺちん、と唇は厚みのある掌で覆われて、私はもごもごと口ごもった。何をするのか、と桂木を睨みつければ、彼は肉感的な唇の前で指を一本立てて片目を瞑る。
「しー、だぞ、シャッツ。触覚を使え。何かテレパシーで俺に伝えてみろ」
桂木は新しいこの遊びを楽しむつもりらしい。私はとりあえずふさがれた掌を死に物狂いで引き剥がして、めいっぱい酸素を吸い込んだ。その間も桂木は期待に満ちた視線でこちらをじっと見ている。
私がその遊びに付き合う義理もなかったが、こういう無邪気な瞳を向けられてしまえば、無下に切り捨ててしまえない。そこがアホなところなのかもしれないが。
私はめいっぱい不機嫌そうな表情を作りながら、椅子に座りなおした。
とりあえず、目の前の男にちょっとぐらい付き合ってやればいいのだ、と寛大な気持ちで対することにする。
私はピッコロじゃなくて、神様派です。優しいところが素敵だと思いますけど。
そう思いながら、じいっと桂木を見据えると、桂木もこちらを真剣な瞳で見返している。まるでにらめっこをしているかのような緊張感で、時間を忘れるぐらい見詰め合っていると、唐突に桂木が微笑んだ。
それは柔らかくて甘い笑顔で、不意打ちで私の心臓は止まりかけた。綺麗過ぎるものは、時には凶器にもなりうるというのは何度も体験済みで、桂木は恐るべきデススマイルの使い手なのである。
頬に集まる熱を冷ましながら、私は動揺を誤魔化すために声を出した。
「どうですか会長。私が何思ってたか、わかりましたか?」
「お前はテレパシー使えなくても良いな。見てれば何考えてるか解る」
そんなに解りやすい表情をしていたのだろうか、と顔に触れてみるが、それで解るはずも無い。私の様子に桂木は喉を鳴らすと、それに――と言葉を続ける。
「俺は直接、好きだっていいたいからな」
ピッコロの硬派さをなぜ見習わない、と思ったわけなのですが。
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御礼&蛇足という名の後書き
ヤオさんのところから頂いてきた、桂木拓巳のイラスト!!! 暗闇に浮かぶセクシーな桂木に悩殺されました! しかも手に持っているのがドラゴンボールピッコロさんエディションですよ! 細やかなネタを仕込んでくるヤオさんに乾杯です! 不敵な桂木の表情もイメージぴったりですごく創作意欲刺激されました! ヤオさん、ほんとうに素敵なイラストをどうもありがとうございました!
ヤオさんのサイトはこちら → かいなのやおろず