ふと、見慣れないものを目にした。
廊下の向こう側に死神のように陰気な雰囲気を漂わせた男がそっと佇んでいる。我が南高の生徒の恐れの対象となっており、最近は彼にまつわる新たな怪談を耳に挟んだ(一日に三回以上見てしまったら呪われるとかなんとか)――峰藤浩輝である。
そんな峰藤が不吉なのはいつものことであるが、今日の峰藤は黒い携帯電話を耳にあて、誰かと喋っているようだった。
声が届く距離ではないが、その表情や仕草がいつもとは少し違っていて、私はなんとなく立ち止まる。
峰藤は視線を下に落とし、微かに頷きながら会話していた。そして、緩やかに弧を描く口元を目にして、私は心の底から驚く。
――うわぁ、笑ってるよ。
それは、いつも私に向けているような、威嚇の微笑でもなんでもない。思わず漏れてしまった苦笑のようだったが、その別人かと思うほどの穏やかな微笑みは私の視線を釘付けにした。
絶望的といえるほどの愛想の無さと、厭味ったらしい口調と、そして矯正不可能な陰険さを無視すれば、凛とした雰囲気に好感を持つ女の子も多いかもしれない――意外すぎるが面倒見もいいし。
そんなことを考えながら、私がぼんやりと見つめていると、電話を終えた峰藤は視線に気づいたのか、こちらに目を向けた。
私の姿を認識した峰藤の表情には一瞬、動揺の色が写ったような気がしたが、それはたぶん錯覚だ。峰藤は奇妙に顔を歪め、そして私の背筋を凍らせるような厳しい視線でこちらを睨んだ。
私はぱっと目を逸らし、唇を尖らせて口笛を吹くまねをする。ひょろひょろ。
ナニミトンネンオンドレ、イテマウド、とかなんとか襲撃されたらどうしよう。不躾な視線を送っていた落とし前、どうつけるおつもりですか? とかすごい言いそう!
しかし、峰藤は私の予想を鮮やかに裏切り、私に背を向ける。いつもなら、たぶん嫌味のマシンガンで惨殺されているところだが、今日はついてる。
私はほっと息をつきながら峰藤を見送ったが、やけに緊張して見える広い背中に首を傾げた。
――ついでに僅かに赤くなった耳が視界の隅に見えたのは、たぶん、きっと、ぜったいに気のせいに違いない。
目で殺す
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御礼&蛇足という名の後書き
ゆうきさんに頂いてしまった、ワタシトカレラ。の峰藤浩輝のイラスト! かかかか、かっこよすぎる!!! この蔑みの視線がたまりません。はぁはぁします。はぁはぁ。理知的な陰険眼鏡、たいへん美味しく堪能させていただきました。とっても幸せ!
ゆうきさん、すごく素敵なイラストをどうもありがとうございました!