色素の薄い髪は、触れたらさぞ鳥の羽の様に柔らかいのだろう。
瞬きをする度に音が聞こえそうな繁った睫毛や、すっと秀でた額から流れる鼻筋のラインは溜息が出そうになるぐらい綺麗だ。
凛々しい眉や、厚く官能的な唇、そして尖った顎までが完璧で、私はそれをぼんやりと眺めた。
抜けるような肌質の喉から突起したアダムの林檎が、時折、とくとくと動くのさえ眼にしなければ、私は目の前の人物が、良く出来た石膏像だと言われても信じていたかもしれない。
それでも、顔に埋め込まれた翡翠のような眼だけは、生き生きと輝きこちらを見て――いる?
「何だ、人の顔をじろじろと見て」
その瞳を細めて、人形のような美貌を持つ男――桂木拓巳は読んでいた漫画から眼を上げて、私を面白そうに見返していた。
私は、喫茶店のいつもの特等席で漫画を読む桂木の正面に、座ることを"許可"されていた。
といっても、別に話をするわけでもなく、桂木は漫画を読んでいるし、暇をもてあました私は、目の前の人物をなんとなく観察するにいたったわけである。
まぁ、至近距離でまじまじと見られていたら、どんな人間でも普通は気づくだろう。しかし、一般人からは容姿も性格も逸脱している桂木は、その視線を厭う様子も無く、艶然と微笑んだ……目の毒だ。
思わず見惚れてしまいそうになる自分を戒めて、私はぎゅっと渋い顔を作る。
「会長って、本っ当に顔、だけは綺麗ですよね」
「体も凄いぞ。見るか?」
「見ません!!! 腹めくらないで下さい!!!」
ちらりと捲られたYシャツの向こうに一瞬、引き締まった平らなお腹が見えたような気がして、私はむせ返る色気に酔った。
この露出魔め。その破壊力を意識してやってるんじゃないか。
私が疑惑の目つきで睨みつけると、桂木は悪戯っぽい顔で機嫌よさそうに笑う……どうやらからかわれたらしい。
形のいい唇がにゅっと歪んで綺麗な弧を描き、その翡翠は水に映った光が乱反射しているかのように、きらきらと揺れる。
「俺はお前に見られるの嫌いじゃないぞ。そこでずっと飽きるまで俺を見てろ」
「いや、ええと……ありがとうございます」
改めて許可されてしまっても困るのだが、私はとりあえずお礼を言うことにした。
断ったらぜったいに、俺の好意をうんぬんかんぬん言い出すに違いない。桂木の行動がなんとなく読めるようになるぐらいの長さは一緒にいたんだなぁ――あぁ、なんか嬉しくない。
もやもやとした気分をもてあましながら、私は手元においてあったアイスティーを飲み干した。
からん、と涼しげな音を立てて回る氷を目で追いかけている私に、柔らかい声がかけられる。
――お代わりはどう?
相変わらず胸をときめかせるハニーボイスに、私はでれんと頬を緩めた。それに結城さんはにっこりと笑って、新しいアイスティーを作り始める。
あぁ、やっぱり結城さんは存在そのものが癒しだなぁ。美人は三日で飽きるというけれど、私は結城さんを三百六十五日見つめていても飽きない自信はありあまっている。
とろんとした目つきで、私が結城さんを見ていれば、突然、ガシイッ! という音がする勢いで、私の顔は鷲掴みにされた。
両頬がつぶれるぐらい強く私の顔を掴んだ犯人――解っていました――桂木拓巳は不機嫌な顔を隠そうともせずに、私を睨みつける。その目はまるで不誠実さを非難しているかのようで、私をたじろがせた。
右手でぐにぐにともてあそばれた頬を、力技で引っ張られ、私の目には涙が滲む。
「いだだだだだ、なにふんですかっっ!!!!」
私の非難には答えず、テーブルの上に身を乗り出した桂木は、引っ張ってきた私の顔に鋭い眼差しを投げかけた。腰が引けているのに顔を無理やり引き寄せられて、私は下手をしたらろくろく首のようになっていただろう。
そして、面白くない、と顔に書いてある桂木は、何を考えたのか私の顔の中央に鎮座ましましている、私の鼻に噛み付いた。
食いちぎられる、と思った私は生命の危険を訴える悲鳴を上げようとしたが、口元を押さえれられていればそれも叶わない。
しかし、予想された激痛はもたらされず、それは、猫の子がじゃれつくようなあまがみだった。
離れていく歯並びのいい口元を、私は目をかっぴろげながら呆然と見送る。
そして、私を恐怖のどん底に陥れた捕食未遂犯は、拗ねたような表情でこうのたまったのだ。
――お前は、俺だけ見てればいいんだ。わかったか。
いいえ、ちっとも、わかりません。
そうは、生命と貞操の危険を感じたので、言えませんでした。南無三!
Show me baby
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御礼&蛇足という名の後書き
ゆうきさんに頂いてしまった、ワタシトカレラ。の桂木拓巳! なんなのこの美人!!!!!! 本当にテンションあがりすぎてやばかったです。翡翠色の瞳とか、まつげばっさばっさなところとか、形のいいな唇とか意志の強そうな眉毛とか、セクシーな喉仏とか、ほんっとうにフェロモン漂ってる感じですよね! すっごい嬉しかった! こんなに美人に書いていただけて幸せです! ゆうきさん、ほんっとうに素敵なイラスト、ありがとうございました!