十一話 / ネバーエンディングナイトメア?


「はい、お疲れ様」
 そう言って手渡された封筒を結城さんから受け取って、私は妙な感慨を感じていた。思い返せば初めてのバイトで初めてのお給料だ。そして今日が最後のバイト日。「最初始めたときより断然手際が良くなった」と結城さんに褒めてもらえたし、峰藤をぎゃふんといわせる事は最後まで叶わなかったが、それも今思ってみれば無謀な事だったと反省できるのだから、ある意味成長したのではないだろうか。結城さんは、しみじみと「浩輝君も君も居なくなっちゃうし、寂しくなるね」言った。
 それはまさしく私の気持ちと同じで、少しは社交辞令も入っているのだろうか、と考えたが、嬉しい事には変わりない。少しだけ、それに後押しされたように、私は恐る恐る口を開いた。
「……あの、また遊びに来てもいいでしょうか?」
「勿論。いつでも美味しいハーブティー用意して待ってるよ」
 結城さんの蕩けるような笑みに、軽くノックダウンされた。
 ――あの時も、正面きって断られたわけでもないし。というか、告白すらもしてないし。
 乙女、恋の執念選手権があれば、いいところ狙えるのではないだろうか。と頭の片隅では自分自身に呆れながらも言い訳していると、峰藤に含みの在る視線で見られた。――腹立たしい。
 そんな峰藤に腹を立てたのは何時もの事だったが、私は一つ咳払いをしてから、気持ちを切り替えけじめとして峰藤に確りと頭を下げた。
「夏の間、迷惑もいろいろかけたと思うし。その……いろいろと有難うございました!」
 初対面の時から比べれば、最近の彼の態度は――大変微妙な変化だけれど――温かみを帯びたようにも感じる。それは気のせいであるのも否めなかったが。
 峰藤は少し驚いたようだったが「まったくその通りですね」と最後まで憎たらしい事を言った。それに、と何故か峰藤は不満そうに鼻を鳴らした。
「なんですかその今生の別れみたいなお礼の言い方は」
「そうだ!!」
 ずしんと、肩におんぶお化けが現れた。――桂木だ。
「なんですか会長。どいてくださいよ、重い!」
 それを邪険に振り払おうとすると、余計にむきになって取り付いてくる。ぶんぶんと動き回る私たちを峰藤は迷惑そうな目で見た。結城さんは相変わらず面白そうににこにこ笑っているだけだ。
「お前は2Cだ!」
「はぁ?」
「2Cのクラス委員でしょう? ってことですよ」
「それがどうかしたんですか!?」
 親切に桂木語を訳してくれた峰藤の言いたい事がよく理解できなくて、イライラと叫び返す。

「貴方、自分が生徒会の一員だということ、お忘れになってませんか?」

 つまり。
 嫌な予感を覚えながら、峰藤の表情を仰ぎ見ると、彼は顔を不吉に歪めた――それは別称笑顔とも言う。
「学校でも会うでしょうし、せいぜい桂木の面倒を見て下さい」

 冗談きついんですけど!!

 「僕からもよろしく。仲良くしてやってね」と、暢気な結城さんの台詞に、「嫌です!」と拒否する事ができなくて、私は胡乱に頷いた。

 私の結城さんとラブラブ夏休み計画は狂いに狂いまくり、ろくでもない人達と交流を深めたまま幕を閉じたのであった。
 合掌。



戻る / 進む