※(あまりためにならない)前回までのおさらい。
 自殺未遂のウサギをおいかけて不思議の国に迷い込んだアリスはメイドさんプレイを強要されたり、ダンディないもむしに悩殺されたりとタイヘン! さぁ、アリスは無事におうちに帰る事ができるのでしょうかっ!?




 アリスは辰之新の言葉に勇気づけられすきっ腹をかかえながらもまっすぐと進んで行きます。体に纏わり付く蔦を払いながら飛び出したアリスが目にしたのは二つに分かれた道でした。左右両方に伸びた道を交互に見比べてアリスは頭を抱えます。
「どっち!?」
 辺りを見回してみるも立て札ひとつ見つかりません。
「……どっち」
 とうとうアリスは空腹のあまり座り込んでしまいました。
 あぁ、私こんなところで野垂れ死んじゃうのかなぁ。
 これまでの思い出が走馬灯のようにアリスの頭の中を過ぎります。それにはあの小憎たらしい峰藤ウサギの姿もありました。
 一言ぎゃふんと言わせたかった……。
 ぎゅむ。
 俯せに行き倒れていたアリスの背中を誰かの足が容赦無くふんずけました。
「いっったぁいっ!」
 アリスはたまらず叫び声をあげます。
「なんだ生きているのか。それならそうと始めから言え!」
 アリスは跳び起きて傍若無人な言動の主を睨み付けました。猫耳が頭にくっついている上に蛍光ピンクと紫のしましまのスーツという狂った格好をしていましたが、そのエキセントリックさをカバーしてもお釣りがくるぐらい整った容姿を持つ男でした。
「始めから言えって、倒れながら『生きてますよ』ってずっと呟けとでも言うんですか!?」
 アリスが怒鳴り声をあげれば猫男は弾かれたように笑い出しました。
「そんな根暗な死体ならば是非見たいなっ! おい、おまえ名前は?」
「ご自分の名前を名乗ってから聞くのが礼儀ってものでしょう?」
 つんけんとした台詞を返すと、猫男はふむと手をあごの下に添えながら考え込みはじめました。やっと自分の態度を悔い改めたのかしら。とアリスは溜飲を下げながら様子を伺っていると、なにやら猫男はぶつぶつとつぶやいています。
「名無しのゴルゴンとか、ガガーリンでも、コペルニクスも悪くない。ふむ。動く死体っていうのも……」
「アリスです! 私の名前はアリスっ! ぴっちぴちのティーンですよっ!」
 変な名前をつけられてはたまらないとアリスは自分の名前を叫びました。
「そうかっ! アリスかっ! 変な名前だなっ!」
 なにが愉快なのか、猫男はご機嫌な様子でげらげら笑っています。
 ……変な人にあっちゃったなぁ。とアリスは頬を引き攣らせました。頭の中では「関わり合わない方が吉」と危険探知機が高らかに鳴り響いています。
「じゃあ、私はこの辺で……」
 まだ笑い続けている猫男に気づかれないように、控えめな笑みで頭を下げながら、アリスはこの場を去ろうとしました。
 抜き足差し足忍び足。背を向け、泥棒のような足取りで二歩、三歩進んだところで、アリスは首根っこをひっ捕まえられました。
 嫌ぁな予感。ぎぎぎと油の切れたブリキのおもちゃのように恐る恐る後ろを振り返ると、まるで太陽のようにまばゆい笑顔の猫男がいました。その美貌にアリスは一瞬、現在の状況をすっかり忘れて見惚れてしまいます。猫男はにいっと三日月のように口を歪めて言いました。
「俺はチェシャ猫の桂木拓巳だっ! お前は俺の下僕に認定された! 光栄に思うがいい!」
「え、ちょ、ちょっと」
 混乱しながらも反論の口を開こうとしたアリスの言葉を、桂木はそれが当然の権利だというように奪いました。

「これから鬼退治にいくから、お供しろっ!」

 キビ団子もくれないんですか? ギブアンドテイクも成立しないんですか?
 鼻歌まじりの桂木に引きずられているアリスが、そう突っ込める筈がありませんでした。

 嗚呼、このままピーチマンの物語に脱線してしまうのでしょうか? 
 それはまた次回のお楽しみ。




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